
先に答えを。麺の種類より、一杯の中での役割が違う
ちゃんぽんを食べていて、「この丸くて、もちっとした麺は何だろう。ラーメンの麺でも、うどんでもない」と思ったことはありませんか。見た目や食感には確かに個性があります。でも、ラーメンとまったく別の原料からできた麺、という答えではありません。
全国製麺協同組合連合会が紹介する生めん類の表示上、「ラーメン」「チャンポン」「冷し中華」は、いずれも小麦粉にかんすいを加える中華めんの定義に入ります。唐灰汁(とうあく)も、そこに含まれるかんすいです。名前だけで原料を二分することはできません。
それでも、長崎のちゃんぽんに似合う麺は、ラーメン用の麺と同じ姿にはなりません。具材を炒めた鍋にスープと麺を入れて仕上げる一杯に、どんな風味、形、歯ざわりがほしいか。そこから麺を見直すと、あの一本の理由が見えてきます。
唐灰汁は、ラーメンのかんすいと別物?
長崎のちゃんぽん麺を語るとき、よく出てくるのが唐灰汁です。長崎県の観光情報は、小麦粉に唐灰汁を加えることで独特の風味が出ると紹介しています。「ラーメンにはかんすい、ちゃんぽんには唐灰汁」と並べると別物に見えますが、唐灰汁はかんすいの一種。ラーメン麺も同じくかんすいを使う中華麺の仲間です。
かんすいは一つの決まった液体の商品名ではありません。食品原料メーカーの説明では、炭酸ナトリウムや炭酸カリウムなどのアルカリ性の成分を使い、麺の色や香り、食感に関わります。どの材料をどう組み合わせるかは製麺所や商品によって異なるため、「唐灰汁が入れば必ず同じ味」とも言えません。
つまり、ちゃんぽんらしい風味を唐灰汁だけに背負わせるのは少し乱暴です。小麦粉、水分、麺の太さ、ゆで方も重なって、食べたときの印象になります。唐灰汁の背景や作り方は、ちゃんぽん麺と唐灰汁の記事でさらに紹介しています。
うどんに似ているのは、丸くて少し太いから
丼に入ったちゃんぽん麺は、白っぽく、断面が丸く、やや太めに見えることがあります。うどんを思い浮かべるのは自然です。けれども、うどんは一般にかんすいを使わずに作ります。小麦粉の麺で、形が似ていても、風味と歯ざわりまで同じにはなりません。
麺の形にも製造上の選択があります。水谷製麺所が公開する工程では、小麦粉と唐灰汁を混ぜ、生地を延ばし、太めの丸い麺線に成形した後、ゆでて冷やします。これは一つの製麺所の例で、長崎の全店が同じ工程を踏むという意味ではありません。仕上がりの形は、包丁で最後に太く切るだけで決まるものではないのです。
ただし「ちゃんぽん麺は必ず太い」も違います。同じ長崎の製麺所・三和製麺には、太麺と細麺のちゃんぽん用商品があります。ラーメンにも太麺があります。境界線は一本の直径では引けません。なぜその太さや口当たりを選ぶのかを、次の調理法と合わせて考える必要があります。
鍋で何が起こる? 具材のスープで麺まで仕上げる
ラーメンには、別の湯で麺をゆでて丼のスープと合わせる作り方がよくあります。一方、農林水産省の郷土料理紹介にあるちゃんぽんの作り方は、麺を下ゆでし、肉・魚介・野菜を炒めた鍋へスープとともに加えて煮るもの。具材から味が出た汁の中で、麺も最後の加熱を受けます。もちろん、どちらの料理にも店ごとの作り方はあります。
ここで麺にほしいのは、単に「スープをたくさん吸うこと」だけではありません。具材と汁をまといながら、食べ始めにも麺の歯ざわりが残ること。三和製麺は自社のちゃんぽん麺を、スープのうまみを含みながら伸びにくく、もちっとした弾力となめらかさがある麺として紹介しています。同社の商品が目指す特徴であり、すべての商品が同じというわけではありません。
麺の状態にも選択肢があります。三和製麺には、ゆで麺のほか、店や家庭で好みの加減にゆでる生麺もあります。『ちゃんぽん用なら必ず最初からゆでて売られている』ということではありません。麺が鍋に入るまでの工程が違えば、仕上げに必要な加熱も変わります。

肉・魚介・野菜を炒める
具材を中華鍋で合わせる

スープを注いで煮る
具材の味が汁に重なる

下ゆでした麺を入れる
具材のスープで仕上げる
同じ中華麺の仲間でも、ラーメンとは別の料理
麺の分類が近いと分かると、「では、ちゃんぽんは具だくさんのラーメンなのか」と思うかもしれません。けれども、料理を決めるのは麺の原材料だけではありません。具材をどう扱い、スープと麺をどの段階で合わせ、どんな一杯として食べるか。その組み立てまで含めて料理です。
ちゃんぽんでは、肉、魚介、野菜を炒めた鍋にスープを注ぎ、そこへ麺を入れて仕上げる作り方が親しまれています。野菜や魚介の味が出た汁を麺もまとい、具材と麺を一緒に口へ運ぶ。麺は完成したスープに添えるだけでなく、具材と同じ鍋で一杯の味になっていきます。
ここで麺だけを入れ替えれば、食感も、スープと麺の釣り合いも変わります。ラーメンの麺で具だくさんの一杯を作ることはできますが、それは元のちゃんぽんと同じ味にはなりません。ちゃんぽん麺をラーメンのスープに入れたときも同じです。材料を交換できるかどうかと、その料理らしい一杯になるかどうかは別の話です。
もちろんラーメンにも多様な麺、スープ、具材、調理法があります。だから「ラーメンは必ずこう、ちゃんぽんは必ずこう」と一本の線で分けることはできません。それでもラーメンはラーメンとして、ちゃんぽんはちゃんぽんとして、それぞれの麺を含めた一杯の味が育ってきました。似た材料を使っても、二つは別の食べ物です。
だから、ちゃんぽんにはあの麺がある
「ちゃんぽん麺とは直径何ミリの麺」と一つの数字で決めるより、具材のスープとともに食べたときの風味や歯ざわりに目を向けたいところです。長崎の製麺所が太麺と細麺、生麺とゆで麺を作り分けているのも、店や食べ手が望む一杯に合わせるため。ちゃんぽん麺には幅がありますが、どれも『一杯の中でどう食べられるか』を考えて作られています。
小麦粉もその選択の一つです。長崎県はちゃんぽん麺に向く小麦「長崎ちゃん麦」を紹介しています。長崎ちゃん麦の記事を読むと、同じ小麦粉でも麺に求める性質に合わせて選ぶことが分かります。ただし、県産小麦を使うことがすべてのちゃんぽん麺の条件ではありません。
次にちゃんぽんを食べるときは、まず麺だけを一本、その次に野菜と一緒に一口。唐灰汁の風味、丸い麺の口当たり、具材の味を含んだスープとのなじみ方を確かめてみてください。あの麺が「ラーメンでもうどんでもない」と感じられる理由は、麺だけを見つめるより、ちゃんぽんという一杯を食べたときにはっきりします。


